税理士による “税金のこと” part3「親などからの資金援助」のメリットと気を付けること

住宅ローン控除の基本について勉強したAさんは、「どうすれば住宅ローンの負担を抑えられるか?」といったことを真剣に考えはじめました。奥さんと一緒に、様々な住宅ローンに関する資料などを見ている途中で…「お前が結婚して家を持つことになったら、いくらか援助してやっても良いぞ!」という、父親のひと言を思い出しました。何だか申し訳ないという気持ちはあるものの、家計が助かるのは間違いありません。
そこでAさんは、具体的にいくら援助してもらえるのかは別として、親からの資金援助を受ける場合、どのようなメリットや注意すべき点があるのかを調べてみることにしました。

親などからの資金援助のメリット・デメリット

まずは簡単に、親や祖父母からの資金援助を受ける場合の「メリット」と「デメリット」を確認しておきましょう。

資金援助を受けるメリット

親などからの資金援助(贈与)があると、当然ながら、援助を受けた分だけ住まい購入にかかる自己負担を少なくすることができます。たとえば、金融機関などが提供する住宅ローンを利用する場合、援助を受けた分だけ借入額を減らすことができますので、返済の負担を軽減されます。また、トータルで支払う利息も少なくて済みます。
平成27年1月の相続税改正により、相続税の基礎控除額が縮小され、増税となりました。相続税増税に対する有効な対策が「生前贈与」ですが、生前贈与の仕組みを利用することは、お金についてのメリットを得られるだけではありません。早めに相続への準備に着手することで、後々の相続トラブルを防ぐことも期待できます。

資金援助を受けるデメリット

親などからの資金援助については、上記のような大きなメリットを得られる一方で、「贈与」された金額に応じた税金(贈与税)が課されることがデメリットとなります。場合によっては、「贈与をしないほうが、お金をたくさん残せた」といった事態になることもあります。「どんな方法で資金援助を受けるのが良いのか?」は、日頃の情報収集はもちろん、不動産会社や税理士などの専門家と相談して、慎重に判断することが必要になります。

親などからの資金援助を受ける方法は?

親などからの資金援助を受ける場合、援助される本人と、援助する親の双方にメリットがあるのが「贈与」です。贈与をひと言で説明すると、「ある人が、別の人に、自分の財産をあげること」になります。それでは、「贈与にはどんな方法があるのか?」「贈与を受ける際の注意点」などを見ていきましょう。

【1】暦年贈与(れきねんぞうよ)

暦年贈与とは、「1年間の贈与額が110万円までの場合、贈与税がかからない」という決まりを利用して、暦年(1月1日~12月31日)ごとに一定額の贈与を受ける方法です。通常、贈与を受けた金額が基礎控除の110万円を超えると、超えた部分に対して贈与税がかかってきます。そして、贈与を受ける金額が多ければ多いほど、課税額も大きくなります。
暦年贈与では、毎年110万円までは非課税で贈与を受けることが可能になります。大金を一度に贈与してもらうのではなく、毎年110万円までの金額で、計画的に贈与を受けることは、有効な節税対策の一つになります(相続財産の規模や内容によっては、別の方法がより有効な場合もあります)。

◆ 贈与税(暦年課税)の税率構造(参考:国税庁資料)

基礎控除後の課税価格 一般税率
(一般贈与財産)
特例税率
(特例贈与財産)
~200万円以下 10% 10%
200万円超~300万円以下 15% 15%
300万円超~400万円以下 20%
400万円超~600万円以下 30% 20%
600万円超~1,000万円以下 40% 30%
1,000万円超~1,500万円以下 45% 40%
1,500万円超~3,000万円以下 50% 45%
3,000万円超~4,500万円以下 55% 50%
4,500万円超~ 55%

暦年課税の場合、父母や祖父母などの「直系尊属」からの贈与を受けた人(贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の人に限る)については、「特例税率」で贈与税を計算します。また、特例税率が適用される財産を「特例贈与財産」、適用されない財産を「一般贈与財産」といいます。

◆ 贈与税の速算表(参考:国税庁資料)

一般贈与財産用

区分 200万円以下 300万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 3,000万円超
一般税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円

特例贈与財産用

区分 200万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 4,500万円以下 4,500万円超
一般税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円 640万円

それでは、ここでAさんのケースで贈与税の計算をしてみましょう。Aさんは父親から贈与を受ける予定ですので、特例税率で計算します。なお、税額は以下の計算式によって導き出されます。

基礎控除後の課税価格 × 税率 - 控除額 = 税額

Aさんは、父親から500万円の贈与を受けますので

基礎控除後の課税価格は… 
500万円 - 110万円(基礎控除額)= 390万円

贈与税額は… 
390万円×15%-10万円=485,000円

このように、Aさんには485,000円の贈与税が課税されることになります。

【2】住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置

漢字が並んでいると何やら難しそうな雰囲気が漂いますが、この「住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置」とは、親などから「住宅の取得」を目的とするお金について贈与を受ける場合、一定の金額までは贈与税がかからなくなるという制度です。しかも、これは【1】の暦年贈与と併せて利用することができますので、親などからの援助を受けることが可能な場合は、ぜひ利用したい制度です。なお、取得する住まいが、一般的な住まいの場合と、省エネや耐震などの一定の基準を満たしている住まい(質の高い住宅)の場合では贈与税の非課税額が異なります。

◆ 贈与税非課税限度額(令和8年12月31日まで)

質の高い住宅 一般住宅
1,000万円 500万円
「質の高い住宅」の要件(以下のいずれに該当すること)
(1)断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上
※令和5年末までに建築確認を受けた住宅または令和6年6月30日までに建築された住宅の場合、断熱等性能等級4または一次エネルギー消費量等級4以上
(2)耐震等級2以上または免震建築物
(3)高齢者等配慮対策等級3以上

さらにもう一つ、「相続時精算課税制度」という制度を利用する方法もありますが、これは相続にも関わってくるお話になりますので、次の「知らなければ損をする!?贈与税・相続税への備え」で解説します。

贈与を受ける場合に必ず注意しておくこと

新たに住まいを購入する際に、贈与を受けることのメリットについてご説明しましたが、実際に贈与を受けるときに注意しておくことがあります。後に「相続」が発生した際、「これまでの贈与は正しく行われていたか?」について、税務調査が入ることがあります。贈与を受けるときは、後で大変な思いをしないように、以下の注意点を覚えておいてください。

(1)贈与を受ける場合は「贈与契約書」を作成する。

贈与は口約束でも成立するものですが、税務調査の際に疑義を持たれないよう、「贈与契約書」を作成して「たしかに贈与があった」という証拠を残しておきましょう。なお、複数年にわたって贈与を受ける場合には、贈与を受けるたびに作成することがポイントです。

たとえば、何年かにわたって、毎年ピッタリ100万円ずつ贈与を受けたとします。税務調査の際に「最初から○○○万円の贈与を受けることになっていた」と見なされると、多額の贈与税が課税されてしまいます。しかし、贈与を受けるたびに贈与契約書を作成しておくと、調査があっても証拠を提示できるので安心です。

贈与契約書を作成する際は、贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受ける人)の署名・捺印も忘れずに。なお、公証役場で「確定日付」を押してもらうと、より確かな証拠にすることができますので、強くオススメします。

(2)お金の移動は、預金口座から預金口座へ。

贈与契約書を作成していても、実際の「お金の動き」が見えなければ贈与の有効性に疑いが生じてしまいます。とくに、親族間のお金のやり取りは曖昧になりがちなため、証拠を残す必要があります。贈与によるお金の移動は「預金口座から預金口座へ」を守りましょう。

アドバイスをいただいた税理士さんのご紹介

田代健太郎氏

クロスト税理士法人/代表税理士/田代健太郎 氏
大学卒業後、大手税理士法人などでの勤務を経て、平成26年に自身が所長を務める「田代健太郎税理士事務所」を設立。平成30年に法人化し「クロスト税理士法人」に。税務・会計の専門家として決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業経営支援業務などの業務を幅広く手がける。法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティングなど、個人に対する各種サービスも提供している。
クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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