税理士による “税金のこと” part4知らなければ損をする!?贈与税・相続税への備え

名古屋で新築マンションの購入を検討しているAさん。大好きな名古屋で新築マンションを購入するために、購入資金の一部を父親から援助してもらうことにしました。資金援助を受けるにあたって、贈与の方法や贈与税について調べていると、最近よく耳にする、相続税や相続税対策といった言葉も気になってきました。「何となくわかっているつもりだけど、詳しいことまではわからない…」というAさんは、「相続税とはどんな税金なのか?」といった基本的なことから調べてみることにしました。

相続税ってなに?どんなときに課税されるの?

誰かが亡くなった場合、亡くなった人が持っている現金、預貯金のほか、土地や建物などの不動産、株式などの有価証券、自動車や絵画、宝石…といった財産を、遺された配偶者や子どもなどの親族が引き継ぐことを「相続」といいます。また、財産を遺す人(亡くなった人)を「被相続人」、財産を引き継ぐ人のことを「相続人」といいます。

そして、「相続税」とは、被相続人が亡くなり、相続人が引き継いだ財産に対して課税される税金をいいます。ただし、相続税がかかるのは「相続財産の金額が大きい場合」です。では、「相続財産の金額が大きい場合」とは、具体的にいくらくらいの金額なのでしょうか?実は、平成27年1月1日の相続税改正により、相続税は大幅な増税になっています。

相続税の改正前は…
5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の人数 = 相続税の基礎控除額

相続税の改正後は…
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数 = 相続税の基礎控除額

このように、基礎控除額(非課税となる金額の範囲)が大幅に(4割)も縮小されたのです。これにより、相続の際に相続税を課税される人が増えてしまうことになりました。

たとえば、父・母・子ども2人という家族で、父親が亡くなった場合で比べてみると、相続税改正前の基礎控除額は、「5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円」となり、父親が遺した財産が8,000万円以下であれば、相続税はかかりませんでした。

ところが、相続税の改正後は、「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となり、父親が遺した財産が4,800万円以下でないと、相続税がかかることになったのです。この家族のケースで見ると、基礎控除額は3,200万円も減ってしまったことになります。

さらに、相続税の改正によって、基礎控除額が4割も縮小されただけでなく、最高税率が50%から55%に引き上げられました。つまり、以前より多くの人が課税対象者となり、さらに多くの税金を払う可能性が高まることになったのです。

あなたのご家族も、相続税の課税対象者かもしれません

さて、これまでに「相続税の課税対象者が増える」と説明しましたが、具体的にどのくらいの人が相続税の課税対象者になるのでしょうか。相続税の改正前までは、1年間に亡くなる人の約4%が課税対象者となっていました。それが改正後、約6%になるといわれています。

わずか2%の微増ということであれば、「気にすることはない…」と思われるかもしれませんが、この数字はあくまでも「亡くなった人」の数であって、遺される配偶者や子ども等の相続人の数はそれよりも多くなってきます。改正前後の時期には、課税対象者の数は約11.5万人から、約17.5万人に増えると予想されていました。

相続税の基礎控除額が4割も縮小している状況ですから、ひょっとすると、あなたのご家族も相続税の課税対象者かもしれません。では、どうすれば良いのかをこの後ご説明します。

課税対象者かどうかをシミュレーションしてみましょう

相続税が増税され、課税対象者になる可能性が高まっている状況であれば、「うちの家族(親または祖父母)も課税対象者になるのだろうか?」とシミュレーションをすることが大切です。課税対象者であることがわかれば、その時点から前もって相続税対策をすることで節税できたり、大切な家族が悲しい「相続争い」をすることを防ぐための準備をしたりすることもできます。そこで、最初に行うのが「財産の棚卸し」です。

「財産の棚卸し」といっても、決して難しいことではありません。ひと言でいえば「どのような財産が、どのくらいあるのか?」を知っておくということです。もっとも調べやすいのは「現金・預貯金」です。現金は手持ちのお金のことですし、預貯金は銀行の預金残高などを確認すれば簡単に把握することができます。「株などの有価証券」をお持ちの場合は、証券会社に問い合わせてみるとすぐにわかります。ややこしいのは「土地・建物などの不動産」です。実際の価値は専門的な調査が必要になりますが、ひとまず「固定資産税の評価額」を確認しておきましょう。

それらをひと通り調べたうえで、相続税の基礎控除額を上回る財産があるようなら、早めの相続対策に取りかかっておきましょう。ここからは、場合によっては相続対策の有効な手段にもなり得る、住まいの購入時に利用できる「相続時精算課税制度」をご説明します。

大きな資金援助を得られる「相続時精算課税制度」

「相続時精算課税制度」とは、将来やってくる相続の一部を「前倒し」できる制度です。少々ややこしくなりますが・・・親または祖父母(60歳以上)から子または孫(18歳以上)に贈与した財産について、親または祖父母が亡くなったときに、親または祖父母の財産として相続税額を精算するというものです。

相続時精算課税制度のメリットを簡単に説明すると…

子・孫のメリット

特別控除により、2,500万円までは贈与税が非課税になる。

親・祖父母のメリット

2,500万円までは税金をかけずに、相続財産を前渡しできる。

ということになります。

※贈与額が2,500万円を超える場合については、2,500万円を超えた部分に20%の贈与税がかかります。

さらに、相続時精算課税を利用すれば、親または祖父母から2,500万円まで非課税で贈与を受けることができるだけでなく、「親などからの資金援助」のページで説明した「住宅取得資金贈与の特例」も併用できるので、なんと非課税で3,000万円を超える資金援助を受けることも可能になります。

ただし、この制度の利用を選択した場合、二度と撤回することができません。したがって、その後に同じ親や祖父母から贈与を受けることになった場合でも、「1年間の贈与額が110万円までの場合、贈与税が非課税になる」という暦年贈与の制度を利用できなくなります。

また、親または祖父母が亡くなった場合の相続では、相続する財産に、生前に贈与を受けた財産(住まいの購入資金)を合算して相続税額が決まります。そのため、場合によっては、相続時に多額の相続税が発生する可能性があります。相続税を支払えなくなったために、せっかく手に入れた住まいを手放す…といったことでは本末転倒ですので、将来の見通しをしっかりと立てて、慎重に検討することが大切です。

なお、相続財産の額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えない場合、相続税は非課税となります。したがって、相続時精算課税を利用した贈与額が2,500万円以下で、相続税も非課税という場合には、結果的に一切課税されないことになります。

相続時精算課税制度を選択する場合の注意点

それぞれの家庭の財産額や財産の内容、購入する物件やタイミングなどによって、相続時精算課税の利用が有利になるか、不利になるかが大きく分かれます。決して目先のメリットだけで飛びつかないようにしましょう。わからないこと、不安なことがあれば、税理士などの専門家に相談するほうが賢明です。

また、この相続時精算課税の手続きは税務署への届出・申請が必要です(届出は贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日までの間に行います)。また、必要書類の数が多く、手続きも複雑です。もしも書類に1つでも間違いがあったり、書類が足りなかったり、要件を満たしていなかったりする場合には、直ちに納税しなければならなくなります。しかも、その納税額は非常に大きなものとなります。たとえば、2,500万円の贈与を受けていたとすると、納税額はなんと約800万円にもなってしまうのです。ですから、相続時精算課税制度を選択する場合には、専門家のサポートを得ずに手続きをすることは避けましょう。

※2,500万円(相続財産)-110万円(基礎控除額)×45%(特例税率)-265万円(控除額)=810万5千円(納税額)

アドバイスをいただいた税理士さんのご紹介

田代健太郎氏

クロスト税理士法人/代表税理士/田代健太郎 氏
大学卒業後、大手税理士法人などでの勤務を経て、平成26年に自身が所長を務める「田代健太郎税理士事務所」を設立。平成30年に法人化し「クロスト税理士法人」に。税務・会計の専門家として決算申告業務、経営支援業務、独立・開業支援業務、医業経営支援業務などの業務を幅広く手がける。法人に対する支援業務にとどまらず、生命保険・金融資産の検討・見直し、不動産運用に関するコンサルティングなど、個人に対する各種サービスも提供している。
クロスト税理士法人 https://crosst-tax.jp/

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